聴こえ方の変わったシングル曲

だいたいいつもアルバムとしてリリースされると、収録されているシングル曲の聴こえ方が変わります。新たな一面を知ってもっと好きになったり、自分の中でその曲の意味合いが変わってくる、ということはよくあるのですが、今回は「Time」がグググっと自分に近づいてきた感じがします。

 

初めは「PINK BLOOD」が違う味わいになりそうだな、なんて予想していたのですが、蓋を開けてみると「Time」の存在感が凄くて、特にHikkiのボーカルの躍動感、サビの高音からブリッジ部の中低音の艶やかさ、聴いてるとウットリしてしまうんですね(笑)。もちろんシングルとしてリリース当初から好きだったポイントではあるんですが、こうして既発のシングル曲から新たに加わったアルバム曲まで並べて聴くと「Time」の輪郭がくっきりと見えるようになりました。今回は特にバラードっぽい歌もなく、結構凝った内容の曲が多い中で、「Time」というタイトルにしろ詞にしろ、シンプルですっきりしてる(なのに芳醇みたいな)辛口のビールのような飲みやすさが、他の曲と並べたときに存在感がより際立ったように感じています。

 

冒頭に書いた「PINK BLOOD」は、逆に変わらぬ存在感を放っています。単曲で成立していたあの「自己の確立」みたいな世界観が、アルバムになっても突出したりもちろん引っ込むこともなく、馴染みながらも変わらぬ存在を保っているんですね。まさに曲のテーマと合致しているというか。「One Last Kiss」から「PINK BLOOD」へシームレスに繋がっていて(さらにそこから「Time」にも繋がりますが)、一気にアルバムに引き込んでくれるゾーンになってます。まあ、正直言うと「One Last Kiss」のエンディングは「Beautiful World (Da Capo Version)」へ繋がるオリジナルの形の方が好きなのですが(笑)。でも「One Last Kiss」の最後「♪吹いていった~」の哀愁漂いまくる歌詞・Hikkiの声からほわぁ~と電子音で終わって、「♪Pink blood~」とHikkiの声で始まる「PINK BLOOD」への接続は、オリジナルのスタイルを知らなければすっと入ってくる流れになってると思います。

 

ある意味、宇多田ヒカル作品としては異質な存在だった「Face My Fears」は、シングルとはボーカルミックスの変更もあり、少し控えめな存在感でアルバムに馴染んでますね。「Time」「誰にも言わない」がリリースされた辺りまで、次のアルバムはここに「Face My Fears」も加わるとどういうまとまりになるんだろう? と思っていた時期もあるのですが、そこから「One Last Kiss」「PINK BLOOD」をシングルが続き、素晴らしい一体感のアルバムになりましたね。「ULTRA BLUE」の頃のHikkiの発言で、「DEEP RIVER」が詩の世界だとすれば「ULTRA BLUE」は画廊のような感じといった発言がありましたが、今回のアルバム「BADモード」も、前々作・前作である「Fantôme」「初恋」と比べるとアート寄りというか、曲それぞれに結構強めの色がある、色彩の世界だなと感じます。

 

今日は2月19日なので、配信としてのリリースからひと月経ちました。早いものですね…。しかしアルバム1枚でここまで強烈な体験をもたらしてくれるHikkiには、感謝しかありません。そしていよいよCDとしての発売(フラゲ日)まであと3日。すでにアルバム本編はむしゃぶり尽くしているのが不思議ですが、フィジカルで手にできる喜びはしっかり噛みしめたいと思います。楽しみですね。